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「やりっぱなし」研修に限界を感じたら|多様な人材を育てる個人能力開発計画(IDP)の始め方

更新日:
2026-07-23

「経験値や知識レベル、多様な価値観を持つ従業員がいる中で、一律の研修を実施する今のやり方でいいのだろうか。」

「実施している研修やプログラムが、イマイチ社員に届いていない気がする。」

人材育成を担当・推進する方なら、こうした疑問や課題に心当たりがあるのではないでしょうか。

実は弊社KKCompany自身、500名の社員に対して行う研修の中で同じ課題感を持ち、個人能力開発計画(通称IDP)を始めた経緯があります。そこで本記事では、弊社自身の経験や実施した中での失敗などをふまえ、企業の中で多様な人材プールを構築する上での人材育成手法や注意点について解説します。

人材育成のための取り組みは行っているものの、今のままでいいのだろうかと感じている担当者は、参考にしていただければ幸いです。

個人能力開発計画、通称IDPとは?

個人能力開発計画(IDP=Individual Development Plan)とは、従業員一人ひとりが自身のキャリアゴールや目指す姿を明確にし、そこに到達するために必要なスキル・知識・経験を、いつ・どのように習得していくかを具体的に計画したドキュメント、またはロードマップのことを指します。日本語では「個人能力開発計画」や「個人育成プラン」などと訳されることが多いですが、名称自体は知らないけれど、同様の手法で人材育成を実施している、または実施したことがある、という企業様もいらっしゃるかと思います。

人事の方向けのウェビナーで実施した「個別能力開発計画を実施している・したことがある?」というアンケートのキャプチャ画像。回答は「実施したことがない」が最多の63%。次いで「個別能力開発計画を知らなかった」が26%。「過去実施したことがある」が11%となっている。
人事の方向けウェビナーでの投票では「実施している」が0%、「実施したことがある」が11%の回答

IDPを活用した人材育成の最大の特徴は、「会社主導で企画・運営する研修・育成」ではなく、「従業員個人の目標やキャリアを起点にした、オーダーメイドの成長計画」である点にあります。

従来の集合研修や階層別研修は、組織が求める標準的なスキルを効率的に底上げするしくみとして有効でした。しかし、多様な価値観・キャリアや働き方が進む現在では、「全員に同じ学習・成長」を求める仕組みでは、一人ひとりの学習モチベーションや成長意欲に応えるのが難しくなっている現状があります。

そこでIDPでは、従業員自身が「どのような役割を担いたいか」「どんな専門性を磨きたいか」を考え、現状とのギャップを埋めるための学習計画を立てます。そして、その計画に上長やメンター、人事が伴走することで、個人の成長意欲と組織の人材戦略を結びつけていきます。

具体的な育成計画のステップ

育成計画ステップを表した図。スキルの棚卸し、面談&現状把握、研修・学習の選定、プランの策定、開始・モニタリングの5つのステップで構成されている。

IDPを実際に運用するには、体系立てられたプロセスに沿って進めることが欠かせません。ここからは、弊社で実際に行ったIDPのステップと、活用したフォーマットや注意点をご紹介します。

スキルの棚卸しと目指したい姿の言語化

最初のステップは、社員自身による「現状」と「理想」の棚卸しです。このような自己分析は、転職活動をしたことがある人であれば一度は経験があるのではないでしょうか?その時に使った職務経歴書を活用しながら実施するのもひとつの手です。

次に、「3年後、5年後にどのような姿になっていたいか」という目指すゴールを描きます。とは言っても、いきなりこれからどうなっていきたいか考えよう、では思考の入り口が大きすぎて何を考えればいいのかわからない、ということもあるかと思います。

そういった際に弊社で活用しているのが、こんなことを考えていくと自分のなりたい姿が見えてくる、というきっかけづくりの質問集です。

キャリア増の具体化、組織内の役割の定義についての質問をまとめた図のキャプチャ。どのような存在になりたいか、どのような経験を積みたいかといった質問がなら並ぶ。

これらの質問をもとに、これから目指したいキャリアを少しずつ言語化する作業を行います。

このように、「なんとなく成長したい」という漠然とした思いを、具体的な言葉に落とし込むことが、IDPの土台となります。

POINT
自分の強みを客観的に把握するために、弊社ではストレングスファインダーのツールも活用。

上長との面談&スキルギャップの把握

スキルを5つに分け、メンバー3名それぞれの習熟度を円グラフで表したイラスト図

自己分析ができたら、次は上長やメンターとの面談を通じて、目指す姿と現状のギャップを明確にします。ここで上長が担う役割は2つ。

客観的な視点で足りないスキルや経験を引き出す「対話パートナー」

ここでは職種や業務に紐づく専門的スキルと、チームワークやリーダーシップなど、職種に関わらず共通で必要となる行動特性系の能力アセスメントも併せて行います。

特に伸ばすべきスキルの選択

必要なスキルのうち、自社の組織戦略と整合性があり、かつ高いインパクトがある項目を3~4つに絞り、直近の2〜3年で伸ばすスキルを決めます。

いずれの役割においても、社員本人の意欲や志向を尊重しつつ、組織としての期待や配置の見通しもすり合わせることが重要です。個人のありたい姿と組織のニーズが重なる領域を見つけられれば、IDPは企業にとって、より実効性の高いものになります。

研修・学習内容の選定

伸ばすべきスキルが選択できたら、ギャップを埋めるための具体的な学習手段を選定します。

ここでは、いわゆる「70:20:10の法則」を意識すると効果的です。これは、人の成長の70%は実際の業務経験から、20%は他者からの助言やフィードバックから、10%は研修や書籍などの座学から得られるという考え方です。

70:20:10の法則(ロミンガーの法則)を表した図。人の成長の70%は実際の業務経験、20%は他者からの助言やフィードバック、10%は研修などの座学から得られるという考え方。

弊社のケースですと、以下のように学習機会が提供されます。

70%の業務経験 伸ばしたいスキルを活用する機会のあるプロジェクトにアサイン
20%の他者から助言 メンター制度を設けており、学習者が獲得したいスキルをすでに身につけている人について、フィードバックをもらう1on1の機会を設ける
10%の座学 eラーニングコースの受講、専門書による学習、外部研修

これら複数の学習機会を組み合わせることで、より効果的な成長を推進しています。

学習プランの策定

学習手段が決まったら、それを「いつまでに」「どのくらい」進めるのかという具体的なスケジュールに落とし込みます。定期的な学習やスキル獲得進捗の確認のため、弊社はスケジュール・進捗管理にツールを使って行っていますが、学習スケジュール作成に使うツールはどんなものでも問題ありません。

定期的な学習やスキル獲得進捗の確認のために使用しているツールの操作画面のキャプチャ。
弊社ではもともと使っていたツールにたまたま学習計画機能があったため、それを活用

ポイントは、学習者とその上長またはメンターの双方が、学習の進捗を定期的に確認できて、フィードバックできる体制があることです。

また、その際設定する目標は「マネジメント力を高める」という漠然とした目標ではなく、「半年以内にマネジメント研修を修了し、3か月間で後輩1名のOJT指導を担当する」といった具体的な形にすることで、誰が見ても測定ができる形にしています。

POINT
学習時間を業務時間内にどう確保するかという点も、あらかじめ上長と合意しておくと継続しやすくなります。弊社の場合、学習の時間はあらかじめ学習者のカレンダーに予定として入れておく形を採用しています。

開始・モニタリング

計画を策定したら、いよいよ実行フェーズです。上長やメンターとの1on1で進捗やスキル獲得状況を定期的にトラックします。

開始後最も重要なのが、「立てたら終わり」にしないことです。IDPが形骸化する最大の原因は、計画を作ることが目的化し、その後のフォローがなされないことにあります。

また、ここで重要なのはIDPは「評価とは切り離すこと」です。育成と評価を紐づけてしまうと、学習者側は簡単に達成できる成長目標や学習を設定してしまいますし、育成者も定期的な1on1や面談をこなすことが目的となってしまい、本来の成長支援としての役割からかけ離れて行ってしまうからです。IDPは、失敗を恐れずに挑戦的な成長目標を描ける、安心できる仕組みとして設計することが大切だと、弊社は考えます。

POINT
弊社では四半期に一度上長やメンターとの1on1が推奨されており、「計画通り進んでいるか?」「サポートが必要な点はないか?」「目標そのものを見直す必要はないか?」を上長と一緒に振り返る機会を設けています。

IDPを活用するメリットと注意点

ここからは、弊社が実際数年運用してみて感じたメリットとデメリットをご紹介します。

活用するメリット

学習意欲の維持

1つめに、自分のキャリアと紐づいた学びだから、学習者が「なぜこれを学ぶのか」が腹落ちしている状態で学び続けられる点があげられます。

会社から一方的に与えられた研修や学習の機会は、「やらされ感」が生じやすく、モチベーションが続きにくいという課題があります。一方、IDPは社員自身が「なりたい姿」を起点に計画を立てるため、学習の目的が自分ごととして明確になります。

また、計画時に細かなマイルストーンに分割して設計していると、小さな達成を積み重ねるよろこびを感じやすくなり、モチベーションの維持につながります。

実際弊社では、IDP以外にも学びの機会はたくさん提供されているのですが、学習継続率で言うと、人事のここ2~3年の観測範囲では、他の研修プログラムと比較してIDPプログラムが一番高いという結果が出ています。

成長の実感

2つめに、学んだことを実際の業務で活用する、できることが増えていく、といったサイクルがまわり、成長の実感を感じやすくなるという点があげられます。

筆者自身もそうですが、日々の業務に追われていると、自分がどれだけ成長したのかを実感する機会は意外に少ないものです。それが、IDPによって学びとできることを可視化した状態にすると、当初のスキルギャップと現在の状態を比較できるため、「以前はできなかったことが、できるようになった」という成長を客観的に確認できるようになります。

成長の実感を感じることの何がいいかというと、従業員にとっては自己効力感を大きく高めますし、結果、会社へのエンゲージメント、つまりこの会社のために働きたい、貢献したいという気持ちの向上に寄与します。弊社の場合、まだN数は少ないですがIDP受講者の離職率は受講していない人と比較して低い傾向がある、という結果がみて取れました。

目指す姿をお互いに把握できる

IDPは、社員個人の成長計画であると同時に、社員と会社が将来のキャリアについて「合意(握る)」するためのしくみでもあります。この点は、従業員と企業双方にとって大きなメリットになります。

従業員側は、自分はこれからこういうキャリアを歩んでいきたい、と上長や会社側と共有・合意することで、挑戦したい領域に関連するプロジェクトへのアサインや、学習費用の補助、社内公募ポジションへの推薦など、必要なサポートが適宜受けやすくなります。

一方、会社側は、社員一人ひとりの志向や成長ステップを把握できることで、今後の人員配置計画(サクセッションプランや今後の必要採用見込み数)が立てやすくなります。「次世代リーダー候補が組織にどれだけいるのか」「特定領域の専門人材をどう育成するか」といった中長期の人材戦略を、育成プランや進捗が可視化されることで具体的に描けるようになります。

弊社では実際このIDPプログラムを本格開始した2025年は、全従業員の6%が自らの申告でジョブローテーションに成功したという実績があります。つまり、私たちが目指す人材育成の目的「グループ内での人材プールの構築」が着実にワークするようになっている、という結果だと思います。

活用する際の注意点

このようにメリットだらけに見えるIDPですが、活用するに際して、いくつか注意すべき点も存在します。

リソース確保が難しい

前章でみていただいたように、IDPには人が介在するステップや手順が通常の研修や育成に比べていくつもあります。

手順やマニュアル、必要なツールなどを人事側で整えてサポートするも、どうしても人が入らざるを得ないステップが必要になり、また多くのステップは通常の業務で忙しい現場のリーダーやマネージャーが行うことになります。

結果、このプログラムを動かそうとすると、育成の専任でない限りどうしてもリソースが足りないということになります。

十分なリソースを使えるだけの余裕がチームにあるか、またなるべく人力を必要としない省力化のための仕組みやシステムも併せて検討が必要となります。

組織文化によって合う合わないが分かれる

IDPはあくまで人材育成手法のひとつであって、すべての企業に有効な手段ではないということを理解した上で、実施の見極めをする必要があるのも注意すべき点です。

弊社の場合、先に述べた通り人材育成の目的が「多様な能力を持つ人材プールの構築」だったためIDPプログラムは今のところ一番適した施策だと感じていますが、たとえば従業員がIDPをやらなければならないノルマだと解釈し、抵抗を示すケースもありえると思います。

自社にとって人材育成の目的は何か、またその手段としてどんな形が最適かの議論ができていないと、やってはみたけれど計画だけの形骸化した育成プランになってしまう可能性があります。

マネージャーのメンバー育成スキル不足

3つめに、IDP実施のキーとなるマネージャーやメンターの育成スキル不足です。IDPの質は、開始前や開始後の1on1を担う上長のコーチング力や対話力に大きく左右されます。

上長に適切な育成スキルやナレッジがないと、従業員の育成計画もうまくいきません。弊社では、リーダーシップ研修を標準的に行うのと、IDPプログラムをまずリーダー陣からはじめて、どういうものかを理解してもらった上で広げていく手法をとっています。

IDPを有意義なものにするための、AI活用

ここまでは、すべて人がマニュアルで行う場合のIDPの手法やメリット・注意点をご紹介しましたが、実は人材育成の領域でもAI活用が進んでおり、特にIDPを行う際には非常に活用の余地が大きいと考えています。

具体的にどのステップの、どの業務をAIと協業できそうか、ここから解説していきます。

育成計画ステップを解説した図。STEP2の面談、STEP3の研修・学習の選定、STEP4のプランの策定はAIを活用することができる。

スキルギャップ分析

膨大な従業員データと職種・ポジションに必要となるスキル・知識のマッチングや最適化は人間よりAIが得意な領域です。社員のスキルデータや業務履歴、職種ごとに求められるスキル要件を分析し、目指すキャリアに対して何が不足しているかを自動で可視化する仕組みが実用化されつつあります。これにより、これまで上長の主観に頼りがちだったスキルギャップ分析が、客観的かつより細かく行えるようになります。

学習内容の選定

たくさんある学習コンテンツや手法の中から、一人ひとりのスキルギャップ、志向性に基づいて、最適な研修や学習をパーソナライズして推薦するのもAIが得意とするところです。

膨大なコンテンツの中から人間が自力で選ぶのは現実的ではないですが、AIを活用するなら可能です。

学習プランの作成

獲得するスキルに対して、前章で紹介した「70:20:10の法則」に基づき必要な学習を、最適な組み合わせでスケジュール化してくれる。これもAIに任せてしまえる領域です。

モニタリング

特に1on1で誰をコーチやメンターとして指定するか、上長以外にも最適な人材が社内にはいるはずです。このマッチングもAIならデータベースにインプットされているスキルやポジション情報をもとに、必要に応じてサポートしてくれます。また、プログラム開始後のフィードバック面談タイミングのリマインドも行ってくれるでしょう。このように、生成AIが負担軽減をサポートして、マネージャーやメンターは空いた時間で学習者と質の高い対話や壁打ちに時間をさくことができるでしょう。

ただし、ここで強調したいのはAIはあくまで支援ツールであり、最終的なキャリアの意思決定や、人と人との対話による動機づけの重要性は変わりません。AIと人が協業しつつ、それぞれの強みを活かす運用が、これからのIDPの姿となるでしょう。

おわりに

すべての従業員を対象にして開始する前に、まずは一部チームやリーダーのみ、など小さなグループでパイロット運用し、運用知見を蓄積しながら少しずつ拡張していくことをおすすめします。

小規模グループを対象にした際も、IDPの土台となる従業員の振り返りワークから始めてみるなど、スモールスタートを意識して始めてみるのが現実的な第一歩です。

IDPは、社員一人ひとりの「なりたい姿」を起点に、必要なスキルを計画的に習得していくためのロードマップです。適切に運用すれば、社員の学習意欲の維持や成長実感につながるだけでなく、個人のキャリアと組織の人材戦略を結びつけ、人的資本経営やキャリア自律の実現を力強く後押しします。

効果的かつ、持続可能な人材育成運用を目指して、一緒にがんばりましょう!

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